かむことは口と顔の筋肉運動

かむ11.jpg食べ物をかみくだくことを、専門的に「咀しゃく」といいます。それは、左図の咀しゃく筋や舌の筋肉、首や肩の筋肉を上手に使うことによって初めて成り立っています。そして、それらの筋肉をコントロールしているのは脳です。食事の時、めったに舌をかまないのは、食べ物の大きさや硬さ、位置などの情報が脳に伝えられているからです。


また、脳への情報伝達という点では、味覚も大切なポイントです。食事は食べ物の味やにおい、触感、音、視覚など五感で味わうものです。よくかんで、ゆっくり食事を楽しむことは、消化に良いばかりでなく、脳内の神経ネットワークの活動を高める手段でもあります。

 

現代人の食生活は、昔に比べて軟らかい食べ物が多く、咀しゃくの回数は減りがちといわれます。
日々の食事に歯ごたえのある食材も取り入れて、よくかみながらゆっくり味わいたいものです。

 


唾液は全身の健康を守る泉

よくかめば、唾液もたくさん分泌されます。唾液は食べ物に適度な水分を与え、食べ物を飲み込みやすくしたり、食べ物の味を溶かし出して、舌の味覚細胞に運ぶ働きがあります。
また、唾液の中には、でんぷんや脂肪を分解して消化を助ける酵素のほかに、細菌の増殖を防ぐ物質や、免疫細胞を増やす物質、新陳代謝を活発にする物質、活性酸素の働きを抑える物質など、健康に大切な様々な物質が含まれており、それぞれが重要な働きをしています。こうした唾液の分泌をうながすためにも、しっかりとかむ習慣が大切です。

消化作用

(アミラーゼ)

摂取したでんぷんを分解する酵素で、腸粘膜で吸収しやすい形にします。

抗菌作用

(リゾチーム)

歯や粘膜の汚れを洗い流し、細菌の侵入や増殖を防ぎます。

粘膜保護作用

(ムチン)

粘り気があり、食べ物を包んで飲み込みやすくし、同時に口の粘膜を保護します。

抗酸化作用

(ペルオキシターゼ)

食品添加物などから、体内で発生した活性酸素の働きを抑えます。

抗老化作用

(パロチン)

 唾液ホルモンの一つで、骨、筋肉、血管などを丈夫にする働きがあります。

 

歯周病は全身病。よくかむ習慣で予防を

よくかむ習慣は、そのまま、丈夫な歯と歯ぐきの健康維持にも直結します。
唾液が少ないと、口の中の雑菌が増えて歯周病菌に侵されやすくなります。歯周病は、加齢とともに歯を失う一番の原因ですが、さらに怖いのは全身への悪影響です。歯周病菌が歯肉から血管に入ると、動脈硬化を促進する危険因子になることが分かっています。
また、近年注目されているのが糖尿病との関係で、歯周病が進むと、インスリンの働きが阻害されて血糖値が上昇することや、糖尿病が進むと歯周病が悪化することも明らかになっています。
かむほど多く分泌される唾液によって、口内を清潔にし、雑菌への抵抗力を高めておくことは、歯の寿命や生活習慣病の予防にとっても重要です。
さらにかむ回数が増えれば、顔の表情筋もよく刺激され、口元の形や表情も若々しく保てます。いつまでも若々しくあるためにも「かむ力」は大切です。

江戸時代の儒学者で医師でもあった貝原益軒は、著書『日本歳時記』の中で「人は歯をもって命とする故に、歯という文字をよはい(齢)ともよむ也」と述べています。「齢」(よわい)という字に「歯」が使われていることからも、「かむ」ことが命をつなぐ上でいかに重要であるかがうかがえます。

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